贈りものは。


「・・・・・・それにしてもえらい数のプレゼントやなぁ」


感心したというよりも呆れた口調で、部室の机の上で零れ落ちそうに山となった様々な箱や包みへと冷静な感想を述べた忍足に、跡部はあぁ?と横目でなおざりな返事を返すのみだった。
その端整な横顔は如何にも不機嫌だと主張しているもので。もっとも普段日頃からご機嫌な跡部の姿など滅多に見ることなどなかったが。
かろうじて機嫌の良い彼を見ることができるのは彼の小さなコイビトが隣に並んでいるときだけ。そのコイビトは氷帝学園の生徒ではないので、当然、今はいない。

それにしても、せっかくの誕生日にどうしてこうも不機嫌なのか、と不思議に思いたくなるほど跡部の表情は苛立ったもので眉間の皺はすごいことになっている。
シャツのボタンを止める指も苛々としていて荒かった。
乱暴に、それでもどこか優雅さが拭えない手付きでネクタイを首に掛ける跡部を隣のロッカーで制服へと着替えていた忍足は横目でちらりと見て様子を窺いつつも、こっそりと笑う。
それなりに長い時間、同じ部活で過ごしてきたのだから今の状態の跡部にちょっかいを出すと後で自分が酷い目にあうことなどわかっていた。
それでもうずうずと腹の虫が騒いでしかたがない。
こんなに苛立ちを露わにする跡部の姿など滅多に拝めたものではなく、からかうには絶好の機会だった。

忍足はニヤリとひとつ悪そうな笑みを零すと自分の隣で同じように着替えていたダブルスのパートナーへとゆっくりと向き直り声を掛けた。

「なぁ岳人。知ってんか?今日な、跡部の奴プレゼント全部断ってんで。どんなに女からお願いされても喚かれても泣かれても絶対に受け取らんかったらしいわ」
「え!?マジで?」

決して小声ではない忍足の声に、当然今の会話も聞こえていた跡部の眉間がぴくりと動く。が、何も言わず黙々とブレザーをぞんざいに羽織ると机に足を向けた。
そして部誌を広げようとしてスペースがないことにまた更なる苛立ちを眉間に加えた後、手荒にプレゼントを腕で払って場所を確保する。
バラバラと落ちる包みには見向きもしないで苛々としながらペンを握った。
そんな跡部の様子など気にもしない岳人は興味津々な顔で忍足へと夢中で体を乗り出す。

「断ったって!今まで一度も女からの贈り物を拒否ったことのない、あの跡部が!?」
「そうや。来る者拒まず、去るもの追わずの、あの跡部が、や!やっぱり相手がおると違うんかなぁ」

レギュラー専用に整えられた決して狭くはない、むしろその人数にしては十分に広いといえる豪勢な部屋中に響き渡るような声で話す二人。
その内容に帰る仕度をしていた他のメンバーも思わず手が止まった。ベンチで眠ったままのいまだにジャージ姿なジローを除いて。
彼らの記憶が正しければ、今まで女性からの贈りものを跡部が一度も断ったことはなかったはずだった。
男は女性には優しく接しなければならない、と常々家庭で教えられてきたせいなのか、跡部は男にこそ厳しいが女性には一応表面上は礼儀正しく、というか甘く振舞ってはいた。
その態度に加えて、テニスの実力、その端整で豪奢な美貌、知己に富んだ頭脳、天性の統率力、カリスマ性や突出した家柄、等々に惹かれた女生徒たちに常に囲まれていたのだ。
跡部も彼女達を表立って邪険には扱っておらず、いつも寛容な態度で受け入れていたはず。
その事実を氷帝メンバーは常に最も側で見せ付けられてきたのだから、女性からの贈り物を全て断ったという跡部に驚くしかない。
へぇ〜と驚きながらも面白そうな顔をしていた岳人はそこでふと疑問を顔に表した。

「えっ。じゃあ、あのプレゼントの山は何なんだよ?断ってんだろ?」

その指は机いっぱいに積まれた色とりどりの贈り物の山を指していた。

「それがなー、机やらロッカーやら靴箱やらにいつのまにか勝手に置かれてたみたいでな、跡部のヤツ仕方なくココまでノコノコ運んできよったらしいわ。ははは」
「ハハッ、何だよそれ」
「せっかく断ってた意味あらへんやん。マヌケやんなぁ」
「そうだよなぁ。じゃあさ、あのいっぱいあるプレゼントを跡部はどうすんだ?持って帰んのか?
 …まさか捨てるとかじゃないよな!?」
「いや、分からんで?実のところ、あいつは血も涙もない男やからな。顔色一つ変えんでゴミ箱にポイ!やわ。」
「うわー、ひっでぇ男だなー、跡部」
「ホンマにひどい男なんやで。なんであいつがモテよるんか分からんわー。
 しかも最高にかわいらしい恋人までおるんやから世の中間違っとるん思わんか?」
「ホントだよなー。跡部にはもったいないと思うぜっ」



ひとしきり言い放題に言って笑いあった後、忍足はふいに、何を言われてもずっと黙ったまま机に向かっていた跡部へと振り向いた。

「で、跡部アレどないするん?やっぱり捨てるんか?」
「…引き取り先ならとっくに目星はつけてある。安心しやがれ」

跡部はペンを走らせる手も止めず忍足たちの方へ顔を向けようともしないで背中を向けたまま、ただ静かな調子の声で返した。
決して声は荒げない。
けれど、よく聞けばそれは怒りを十分すぎるほど孕んだ声だった。むしろ大きすぎる怒りを抑えたような、抑揚のない平坦な声。
元から存在していた苛立ちが増幅されたその怒りは当然、好き勝手なことを笑い合っていた忍足たちへと真っ直ぐに向けられていた。


「もっとも、俺様への贈り物の数々が、ウサギ小屋でも十分通るような、ちっぽけなてめぇの部屋に収まりきれるかどうかはわかんねぇがな」
「こら跡部!お前、ウチに来たこともあらへんくせに何勝手なこと抜かしとるんや。大体どんだけの部屋や思うとるねん!そんぐらいは裕に入るわ。…ってウチか!?いや、俺はあんなもんいらへんで!?」
「よかったなー侑士ぃ。跡部がもらうもんってぜってぇ高級なもんばっかだぜー」
「あぁ、忍足だけじゃ不公平だからな。向日にも平等に分け与えてやるから泣いて喜びやがれ」
「えっ!?いや、いらねーし!っていうか侑士は生活困ってんだから全部侑士にやったほうがいいって絶対!」
「こら岳人!お前何てこと言うねん。俺は別に生活に困ってなんかおらんで!ただ一人暮らしな身やから生活費を考えつつ日々倹約にいそしんどるだけやっ!
俺よりお前のほうが素直に貰ったほうがええんちゃうか。前に跡部が貰うてたモン羨ましそうに物欲しそうなツラで見とったやろ?」
「なっ、見てねぇよ!変なこと言うなよ、クソクソ侑士が!!」

ギャーギャーと言い争いを始めたダブルスペア。
その、お互いに押し付けあうという醜い争いを繰り広げている、一応は先輩にあたる二人を鳳は呆れた顔で見ながら、喧嘩する二人を無視して部誌を書き続ける跡部の側へと歩み寄った。
きっちりと着替えを済ませた鳳の手には、跡部が乱暴に払いのけたために床に零れ落ちて彼の足元まで転がってきていた箱があった。
それを机の上の山に戻して、いつもの穏やかな調子でのんびりと跡部に話しかける。

「本当に凄いですね。断ってもこの数だなんて。でも、まさか本当に忍足さんたちにあげるわけじゃないですよね?跡部部長」
「…さぁな。」
「ったく。…あいつらうるさくて隣で着替えてらんねぇよ。それにしても跡部、いったいどういう心境の変化だ?忍足の言うとおり恋人に遠慮でもしてんのかよ」

簡単に制服を羽織って宍戸が鞄を肩に背負いながら机の側へ寄ってくる。
それにも素っ気無く、さぁな、としか答えない跡部に、宍戸は隣に立つ鳳と顔を見合わせて苦笑した。
跡部は決して本音を見せたがらないが、それでも恋人に気を使っているのはバレバレだった。
気がやたらに強いけれどそれすらもカワイイという恋人に彼がいわゆるゾッコン状態、惚れに惚れているのは周知の事実だったのだから。


―――コンコン。

ともすれば今だうるさく口喧嘩を続けている忍足と向日の声にかき消されそうになるくらいに小さく扉をノックする音が聞こえた。
けれど跡部がそれを聞き逃すはずもなく、顔も上げずに入室の許可の声を発した。
きっと、今日の当番が一般部員専用の部屋の鍵を返しに来たのだろう、と思いながらあくまでも鋭く不機嫌な声で。



「失礼シマース…」


「…越前くんっ!」
ゆっくりと開かれた扉から突如ぴょこんと顔を出したリョーマに、すかさず鳳が笑顔で反応を返した。
それにリョーマはぺこりと頭を下げると、とことこと三人がいる机へと近づいてくる。
よぉと短い挨拶をする宍戸にも、無愛想ながらもきちんと挨拶を返す。
その視線は机の上の山に釘付けになっていた。
すごいね、と呟きながらもその量に素直に驚愕を表す。
対して跡部は苦虫を潰したような顔を恋人に向けていた。
あまり自分へのプレゼントをリョーマには見られたくはなかったから。それは自分に群がる女が沢山いるのだという事実でしかなかった。
眉間には皺が寄ったまま、突然氷帝に姿を表したリョーマへと憮然としながら声をかける。
普段は呼んでも、めんどくさいの一言で一蹴するくせに、こんなときにだけ顔を出すのだから困ったものだと思いながら。

「どうしたんだ、リョーマ。お前、今日氷帝まで来るなんて一言も言ってなかったじゃねぇか」
「まぁね。たまにはいいじゃん。…それより、コレいったい何なの?見たところプレゼントみたいだけど」

「「…えっ!?」」

本当に不思議そうに机の上のプレゼントを見回していたリョーマに、宍戸と鳳は奇声を発して驚いた。
何スか?と聞き返すリョーマはとっても怪訝そうな顔。
本当に、このプレゼントの山の意味を分かっていなさそうなリョーマに恐々と鳳が答えを返す。
知らん顔で再び部誌に向き直った跡部を横目でちらりと見ながら。

「えーっと。今日は跡部部長の誕生日なんですよ。…それで、その誕生日プレゼントらしいです」

「え、そうなの?」と驚いた顔で跡部に聞き返すリョーマに、跡部は「そういうことだ」と顔も上げずに冷静な顔で返した。
今日が自分の誕生日であることを肯定する跡部に、ふーん、とリョーマが何かを考えながら呟く。
二人のやりとりを黙ったまま聞いていた宍戸と鳳は心配げに顔を見合わせた。
まさか跡部が恋人に自分の誕生日を告げていなかったとは思いもしなかった。
多分に大切なことを恋人であるリョーマに事前に言っておかなかった跡部を彼は決してよくは思っていないに違いない。
もしかしたら、もう景吾なんか知らない、別れてやる!と怒って帰ってしまったらどうしよう、いや、それはそれで好都合だが…。


密かにリョーマに想いを寄せる二人が同じような考えを勝手に脳内で繰り広げているのを当然知ることもないリョーマは、にやりと笑って丁度良かったと呟くと跡部に近寄った。
自分のすぐ脇に立ったリョーマに怪訝そうに顔を向けた跡部など気にもとめず、リョーマは肩からラケットバッグを降ろしてごそごそと中を探る。
リョーマの肩越しに覗いたその中には当然入っているべきラケットは一本も無く、教科書やジャージの存在も一切見られなかった。
代わりにそれヒトツだけ入っていた小さな物体を跡部の目の前に取り出してリョーマは珍しくも満面の笑顔を向けた。


「Happy Birthday,dear Keigo! はい、コレあげる!」


綺麗な発音の流暢な英語でもって跡部に祝いの言葉を捧げると、更ににこりと可愛らしい笑みで首を傾け、両手に抱いたソレを、ぐいと跡部に押し付けた。
そのワザとらしいほどの満面の笑顔にそれが嘘だと分かっていても、滅多に見られないだけに貴重な可愛い笑顔に加えて、小首を幼く傾げてみせるという絶妙な姿態まで、リョーマがすぐ近くで惜しみなく披露する。
それを見て、うっと前かがみになりそうになった宍戸と忍足は、跡部に突き刺さるほどに冷たい視線をぎろりと浴びせかけられて慌てて何とか笑って誤魔化した。



ハァと大きく溜め息を吐いて、跡部は自分の両手の中でぐにゃりとしているソレに眉間に皺を寄せつつリョーマを睨んだ。

「なんだ、コレは」
「みゃぁ」
「あ、起きちゃった」

そいつカワイイでしょ?とリョーマは自慢げに笑いながら、目をコシコシとこすって小さく鳴き声をあげる真っ黒でちっちゃな仔猫を指差して笑いかける。

「そいつさ、すっごくよく寝る仔なんだ。ウチの仔猫の中でも一番よく寝るの。そんでココまで来る途中電車の中で騒いだらマズいなーと思ってたんだけど、ずっと眠ったまんまで助かっちゃった」
「うちの仔猫って、リョーマんとこのカルちゃん子どもこさえたんかいな。のわりにはちっともカルちゃんに似とらんなぁ。真っ黒で随分とかあいらしいやん」
「あ、おしたりサン…。春頃からカルにお見合いさせてて。この仔は母親似なんデス」

いつのまにか背後に忍び寄ってきていた忍足に驚きもせずに、仔猫を褒められて嬉しそうに顔を向けリョーマは説明する。
が、肝心の跡部への説明は一切なかった。眉根をついと上げて跡部が怒りも露わに仔猫をブラブラと揺らして低い声で問い掛ける。

「もしかしてコイツが誕生日プレゼントってわけか?」
「うん。本当すごい偶然だよね。まさか今日が景吾の誕生日とは思わなかったケド」
「……」

仔猫の脇に両手を入れてぶらぶらとさせたまま黙って不機嫌そうな顔の跡部に仔猫がみゃぁ!と鋭く抗議の声をあげた。
そんな風に持たないで、とでも言いたげな仔猫の鳴き声に忍足はひょいと手を伸ばし、器用に抱きかかえて、にこりと笑う。

「なんや跡部、このコ気に入らんのか?ほんなら俺が貰ってまうでー。猫飼いたい思うてたんや。真っ黒くてリョーマみたいにかあいらしい仔猫やし。ホンマ丁度ええなぁ。」



「…宍戸先輩。忍足さんって、この間、憎むべきは動物と子どもや!って言いながら怒ってませんでしたっけ…」
「…あいつは、あぁいうヤツなんだ、長太郎」

頭の上まで仔猫を持ち上げながらリョーマへと最大級に甘い笑みを向ける忍足を、横目で見つつ、こそりと小さな声で囁いた鳳に宍戸が呆れた顔で返す。




「え。景吾、ソノ仔いらないの?この前、黒い猫が飼いたいって言ってたじゃん」

ベッドの上で、と問題発言をさらりと口に出しながら、リョーマはにやりと笑う。
その企んだような笑みに、忍足の腕の中に大人しく収まっていた仔猫を奪い返した跡部は深く溜め息をつく。
彼がベッドの上で恋人にそう甘く囁いたのは何も本当に黒猫が欲しかったからというわけでは当然ない。単に腕の中で甘く鳴く恋人を黒い猫に比喩しただけだ。
それを理解した上で本物の黒猫を持ってきたリョーマは確信犯の笑みを浮かべて満足そうに跡部の腕の中の仔猫を撫でている。
そんな楽しそうな恋人の表情を跡部は黙って見下ろしていたが、また一つ、今度は前のものより小さめな溜め息を零して表情を微妙に崩した。
絶好調に不機嫌だったはずの顔はいつのまにか消えていた。

「お前、絶対俺が言った意味を分かってて言ってんだろ…」
「えー。何のコト?それより貰うの?貰わないの?」

そう意地悪く問いかけながらも、リョーマのその表情は甘い笑みを隠したもの。
絶対に彼が断るはずもないとわかっているのだから。
綺麗な形に赤い口元は円い弧を描いている。
リョーマの自分だけに向ける艶やかな表情に眩しそうに目を細めつつ、跡部も仕方ないと言わんばかりの笑みを微かに浮かべた。
愛しい、という想いを隠そうともしないで。

「いらねぇなんて一言も言ってねぇだろうが。…まぁ、お前の子どもみたいなもんだしな。コイツは俺様が大事に大事に可愛がってやるよ」
「ハァ!?ナニ言ってんの!?別に俺が産んだんじゃないし。大体オレ怒ってんだからね。もしかして今日が誕生日だってオレに言わないつもりだったの!?」
「アァ?大事な大事な恋人に祝ってもらわないなんて、それこそ冗談だろ。…今日の夜にでも言うつもりだったんだがな」
「それじゃ、遅いじゃん!今でもジュウブン遅いっていうのに…。そのコがいたからまだよかったようなものの、大体、景吾へのちゃんとしたプレゼントだって用意できなかった!」
「アァン?そんなもんは、」

「リョーマ、お前だけで十分だ、とか何とかベッドで言うつもりやったんやろ。このスケベが!イヤッ、跡部様ったら不潔よっ!」



突然背後からぬっと顔を出した忍足が、跡部の声色を真似たように低い声を作った後に、黄色い声で囃し立て始めた。
それに加勢するように向日も遠くから「そうだ!ヘンタイあとべっ。」とかなんとか色々と罵声を浴びせ出す。
恋人同士の甘い雰囲気を部室内で突如作り始めた二人へ、というかリョーマに可愛らしく拗ねられて表情を緩ませていた跡部に対する、ちょっとした嫌がらせのつもり。
カワイイ恋人の、可愛らしい顔を十分に堪能していた跡部は邪魔をされて、当然の如く怒りの表情を浮かべる。
先ほど忍足たちが跡部に関して勝手に繰り広げていた会話に対する怒りも忘れてはいなかった。
それらの怒りを爆発させるために息を吸い込んで怒鳴ろうと跡部はゆっくりと口を開ける。
が。

「…あ〜あとべぇ、そのこねこどしたの〜?すんごいかわいーし…あっ!りょーまだ!!」

突然、間の抜けた声がベンチの方から上がり、溜まった怒りを放出しそこねてしまった。
リョーマの存在に気づいて、どうやらはっきりと目が覚めたらしいジローは嬉しそうに勢い良く飛び起きると、リョーマの元へと駆け寄り手を握る。
側に居た跡部は馴れ馴れしくリョーマに触れるジローに眉をひそめるが、引き剥がそうにも両手は仔猫で塞がっていてそれも叶わない。
起きぬけなのにやたらに元気の良いジローに苦笑しつつも、リョーマは嫌がった様子は見せなかった。何だか動物を連想させるジローにはリョーマはいつもの強い態度に出られない。

「ひっさしぶりだねぇ、りょーまっ!あいかわらずカワイーC〜」
「コンニチハ、じろーサン」
「うん、コンチハっ。ねぇねぇなんであとべはこねこを持ってるの?りょーまみたいにまっくろな猫ー」
「カルが産んだ仔猫なんデス。景吾へのプレゼント」
「えっウソウソっ。おれもほしい〜。ねっ、おれにもりょーまみたいな猫ちゃんちょーだいっ?」

ぎゅっと強く手を握って、しきりにねだるジローにリョーマは困った顔をしながら、黒猫はその仔猫だけだと告げた。
それを聞いたジローは悲しそうな顔で、え〜っ、と残念がる。
今にも泣きそうな顔で悲しがるジローを見たリョーマは、少しだけ考えてからいつも愛猫に見せているような優しい笑顔をジローに向けた。

「真っ黒なのはいないんだけど、まだウチに仔猫いるんで。よかったら、じろーサン貰ってくれません?引き取り手を探してるんで貰ってもらえるとありがたいんですケド…」

リョーマはそっと上目遣いでジローを見る。その可愛らしいお願いするような表情にジローは握った両手をぶんぶんと上下に振りながら、「もらうもらう〜!」と喜んでいる。
よかった、と言ってほっとした無邪気な笑みを口元に浮かべるリョーマを見た跡部は、ギッとジローを睨んだ。
やっぱりコイツは油断できない。普段は寝てばっかりいるくせに、リョーマからの好ポイントをいつのまにかにちゃっかりと上げているのだから。

「あっ、ズルイでジロー。リョーマ、俺にも猫ちゃんくれへん?リョーマのお宅まで貰いにうかがうでー」
「…忍足。てめぇにはコレをやるっつっただろ?」

ジローへの怒りの分も忍足へと向けることに決めたらしい跡部は凄みを効かせた形相で、くい、と顎で机の上のプレゼントの山を示した。
それに忍足は大げさに両手を横に振りながら、えっ、いらんゆーたやん!と悲鳴を上げて拒否をする。
「ハッ、自分の蒔いた種だろ?せいぜい向日と仲良く分けるんだな」と鼻で笑い飛ばしながら、跡部は仔猫をひょいと肩に乗せると、今だ手を握られていたリョーマをジローから奪い返して扉へと轟然と歩き出した。

「行くぞ」
「ちょ、景吾っ、まだじろーサンと話の途中!」
「お前ンとこの仔猫なら近いうちに俺がジローに渡しといてやる。それでいいだろ?」
「それならイイケド…。あっ、じろーサン貰ってくれてありがとうございましたっ!」

笑みを微かに浮かべてお礼を言いながら小さく手を振るリョーマを強引に扉の外へと押し出すと、跡部は中に向けて嫌味に笑う。

「じゃあな。俺様はこれからじっくりとリョーマに誕生日を祝ってもらうんでお先に失礼するぜ。
 …おい、忍足に向日。其れ、いらねぇっつうんなら贈った奴らにちゃんと返しておけよ?樺地にお前らがしっかり役目を果たしたかどうか報告させるからな。逃げようたってそうはいかねぇぞ」




もし明日一つでも其処に残っているようなら、てめぇら二人は仲良くグラウンド100周だ、と最後に付け加えて跡部は颯爽と姿を消した。
シーンと静まりかえった部屋の中で、顔を見合わせた宍戸と鳳は気の毒そうな笑顔を浮かべる。が、手伝う気はさらさらなかった。

「頑張れよ」
「頑張ってください」

無責任に激励の言葉をかけると、面倒なことを押し付けられないうちに、それじゃ、とそそくさと揃って部屋を出る。
ジローも「ねたりないかもー、帰ってねようっと。じゃね〜」とひらひらと手を振りつつ欠伸を漏らして帰ってしまった。
残された向日は引き攣った顔で机の上に山となったプレゼントを眺め、「コレ全部…」と呆然としたが、一方の忍足は「まじかいなー、跡部オニやん。」と飄々と呟いていた。





その後、二人がどうやってプレゼントの山をを贈り主に返したのかは定かではない。




2004/10/06

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+跡部の家へと向かう車中の会話+


「ねぇ、景吾。そのコ何て名前にするか決まった?」
「リョーマ」
「ちょっと!そんなのオレ絶対に嫌だからね!?」
「アァ?冗談に決まってんだろ。リョーマは一匹で十分だからな」
「オレは猫じゃない!」


↑単なるバカップルです。
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と、いうわけで祝いたい気持ちがカラ回ったお話です…。
別名、跡部が猫を飼ったワケ。(笑)

何はともあれ、跡部様、遅れましたがお誕生日オメデトウゴザイマシタ!(やけくそ)






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